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はやぶさ_(探査機)とは?

【所属】
宇宙科学研究所 (ISAS)
宇宙航空研究開発機構 (JAXA)
【主製造業者】
NEC東芝スペースシステム
【公式ページ】
小惑星探査機「はやぶさ」MUSES-C
国際標識番号
2003-019A
カタログ番号
27809
【状態】
運用終了
【目的】
イオンエンジンの実証試験・
小惑星の探査・
サンプルリターン
【観測対象】
小惑星イトカワ
(25143 Itokawa)
【計画の期間】
約4年間(当初)
7年間に延長
打上げ場所
内之浦宇宙空間観測所
打上げ機
M-Vロケット 5号機
【打上げ日時】
2003年5月9日
13時29分25秒
【ランデブー日】
2005年9月12日
【軟着陸日】
2005年11月20日26日
【運用終了日】
2010年6月13日
【物理的特長】

【本体寸法】
6 m × 4.2 m × 3 m
(太陽電池パドル、サンプラーホーン展開時)
1 m × 1.6 m × 1.1 m
(衛星本体)
質量
510 kg(打ち上げ時、燃料重量含む)
【発生電力】
2.6 kW
(太陽から1.0AUにおいて)
【主な推進器】
イオンエンジンμ10
(8 mN / 3,400秒) × 4
姿勢制御方式 3軸姿勢制御
【主な搭載装置】

【AMICA】
可視分光撮像カメラ
【ONC-T】
望遠光学航法カメラ
【ONC-W】
広角光学航法カメラ
【LIDAR】
レーザ高度計
【NIRS】
近赤外線分光器
【XRS】
蛍光X線スペクトロメータ
【ターゲット
マーカ × 3】
小惑星タッチダウン用の人工目標物
うち1個は88万人分の名前入り
【サンプラー
ホーン】
サンプルリターンサンプラー
【再突入
カプセル】
サンプル格納用耐熱容器

はやぶさ(第20号科学衛星MUSES-C)は、2003年5月9日13時29分25秒(日本標準時、以下同様)に宇宙科学研究所(ISAS)が打ち上げた小惑星探査機で、ひてんはるかに続くMUSESシリーズ3番目の工学実験機である。

イオンエンジンの実証試験を行いながら2005年夏にアポロ群小惑星 (25143) イトカワに到達し、その表面を詳しく観測してサンプル採集を試みた後、2010年6月13日22時51分、60億 kmの旅を終え、帰還し大気圏に再突入した。地球重力圏外にある天体の固体表面に着陸してのサンプルリターンに、世界で初めて成功した。

概要

はやぶさは2003年5月に内之浦宇宙空間観測所よりM-Vロケット5号機で打ち上げられ、太陽周回軌道(他の惑星と同様に太陽を公転する軌道)に投入された。その後、搭載する電気推進(イオンエンジン)で加速し、2004年5月にイオンエンジンを併用した地球スイングバイを行って、2005年9月には小惑星「イトカワ」とランデブーした。約5か月の小惑星付近滞在中、カメラやレーダーなどによる科学観測を行った。次に探査機本体が自律制御により降下・接地して、小惑星表面の試験片を採集することになっていた。その後、地球への帰還軌道に乗り、2007年夏に試料カプセルの大気圏再突入操作を行ってパラシュートで降下させる計画であったが、降下・接地時の問題に起因する不具合から2005年12月に重大なトラブルが生じたことにより、帰還は2010年に延期された。 2010年6月13日、サンプル容器が収められていたカプセルは、はやぶさから切り離されて、パラシュートによって南オーストラリアのウーメラ砂漠に着陸し、翌14日16時8分に回収された。はやぶさの本体は大気中で燃えて失われた。 カプセルは18日に日本に到着し、内容物の調査が進められ、11月16日にカプセル内から回収された岩石質微粒子の大半がイトカワのものと判断したと発表された。

小惑星からのサンプルリターン計画は国際的にも例が無かった。この計画は主に工学試験のためのミッションであり、各段階ごとに次のような実験の成果が認められるものである。

  1. イオンエンジンによる推進実験
  2. イオンエンジンの長期連続稼動実験
  3. イオンエンジンを併用しての地球スイングバイによる加速操作
  4. 光学情報を利用した自律的な接近飛行制御と誘導
  5. 小惑星の科学観測
  6. 微小重力下の小惑星への着陸、および離脱
  7. 小惑星サンプルの採取
  8. サンプル収納カプセルの惑星間軌道から直接大気圏再突入・回収
  9. 地表で小惑星のサンプル入手

はやぶさの地球帰還とカプセルの大気圏再突入、カプセルの一般公開、その後の採取物の解析などは日本を中心に社会的な関心を集めた。はやぶさがミッションを終えてからもブームはしばらく続いた。

イトカワ探査の終了後、JAXAでは「はやぶさ2」をミッションとして立案していたが、2011年5月12日、JAXAは「はやぶさ2」を2014年に打ち上げる予定であると発表した。

2013年1月30日に、JAXAがこれまでに蓄積した膨大なデータを広く一般に公開するための実験の1つとして、はやぶさのAPIが構築された。このAPIは多摩美術大学東京工科大学に公開され、同大学の学生がはやぶさのAPIを使用したアプリケーション開発を行う。

名前の由来

ISASでは探査機の名前は、関係者同士の協議によって命名されてきた。MUSES-Cの場合、「はやぶさ」の他にも「ATOM」(Asteroid Take-Out Mission、アトム)という有力候補が存在した。 この名は的川泰宣を中心に組織票が投じられていた案であった。一方「はやぶさ」は上杉邦憲川口淳一郎によって提案され、小惑星のサンプル採取が1秒ほどの着地と離陸の間に行われる様子をハヤブサに見立てた案であった。他にも「はやぶさ」の名には、かつて東京から西鹿児島を走った『特急はやぶさ』や、鹿児島県の地名でもある『隼人』の面もあった。協議の際に的川は「最近の科学衛星は『はるか』とかおとなしい感じの名前や、3文字の名前が多いので、濁点も入った勇壮な『はやぶさ』もいいね」と語り、また「ATOM」は語意の原子から原子爆弾が連想されるとして却下され、結局「はやぶさ」が採用された。 小惑星の名前が「イトカワ」であることから「戦闘機と宇宙機の両方分野で著名な糸川英夫氏に縁の深い、戦闘機『』にちなんで命名された」と言われることもあったが、本探査機の打上げ日に初めて「はやぶさ」という正式名称が発表され、それから3か月後にその目標である小惑星1998 SF36が「イトカワ」と命名されたので、誤解であると川口は説明している。

ミッション背景

計画承認までの経緯

はやぶさのコンセプトアート(NASA)。サンプラーホーンの形が完成形と大きく異なる。また左下にはキャンセルされたNASAのローバーが描かれている。

後に「はやぶさ」に至る小惑星サンプルリターン計画の検討は、日本で初めて惑星間空間に到達することになった「さきがけ」の打ち上げが成功裏に行われ、「すいせい」の打ち上げを控えた1985年6月、ISAS教授(当時)鶴田浩一郎が主催する「小惑星サンプルリターン小研究会」として始まった。その成果として翌1986年には1990年代を想定し、化学推進を用いてアモール群に分類される小惑星である「アンテロス」を対象とするサンプルリターン構想が纏まる。しかし、要求を満たす能力を持つロケットが存在しないなど、時期尚早であるとしてプロジェクトの提案はなされなかった。

M-Vロケット開発を受けて検討は再開され、1989年秋から1990年春にかけて行われた宇宙理学委員会において、M-V 2号機のプロジェクトとして提案された。だが、LUNAR-A計画に敗れ採用されなかった。その後はランデブーとホバリングによる超接近観測を目的とした工学衛星計画に方向性を改めて再検討が進められることになった。1991年1月時点において、MUSES-C計画は光学観測による自律航行、三軸姿勢制御、ターゲットマーカーを用いた自律運用、X線分析装置と質量分析器の搭載などが検討されており、1997年5月に二段式キックモーターを装備したM-Vで打ち上げられ、1998年6月にアンテロスに到達するという計画であった。その後も検討は進められ、1995年に小惑星サンプルリターン技術実験探査機として宇宙工学委員会で選定、1995年8月に宇宙開発委員会が承認し、正式にプロジェクトが開始された。

小惑星サンプルリターン計画と並行して、彗星サンプルリターン計画の検討も行われていた。1987年のハワイにおけるISY会議の席上で、低価格な彗星サンプルリターン計画「SOCCER」の検討をジェット推進研究所 (JPL) とISASとの合同で開始することが決定された。M-Vによる打ち上げや、マリナーMarkII計画の「CRAF」との連携を視野に入れたデルタロケットの使用も検討され、1992年のディスカバリー計画ワークショップにおいて提案されるが、採用されなかった。その後、1994年にISASはMUSES-C計画に注力することを決定、SOCCER計画から外れる。その後、JPLによって検討を続けられたこの計画は、「スターダスト」としてディスカバリー計画に採用された。

目的地の変更

小惑星イトカワの軌道(I:イトカワ、E:地球、M:火星、S:太陽)

1994年に本格化した計画当初、目的地の小惑星は (4660) ネレウスであった。しかしM-Vロケットで打ち上げ可能な探査機の能力から見て、ネレウスへ向かうことが難しいと判断され、第2候補である (10302) 1989 ML という小惑星に変更された。しかし2000年2月10日のM-Vロケット4号機の打ち上げが失敗、2002年初頭に予定されていた打ち上げ計画が延期となって、1989 ML へ向かうことが出来なくなった。その結果、(25143) 1998 SF36が3つ目の候補として浮上、目的地として決定することになった。

はやぶさ命名3か月後の2003年8月、目的地の小惑星1998 SF36は、(探査対象となったことから)日本の宇宙開発の父、糸川英夫にちなんで、「イトカワ」と命名された。糸川は中島飛行機出身であり、設計に参加した飛行機としては「戦闘機(はやぶさ)」が著名であるが、先述のとおりこれが小惑星の名前の由来となったわけではない。

構造

第61回国際宇宙会議で展示されたはやぶさの模型
仕様

バス系

構体
構体は、内部に電子機器や推進剤タンクなどを収容し、宇宙空間での温度差からそれらを保護すると同時に、内外の機器類の固定用強度部材となる。
コンピュータ
主要なコンピュータとして、データ処理計算機(DHU)と姿勢軌道制御計算機(AOCP)がある。これらのリアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)は、DHUにはμITRON、AOCPにはVxWorksを使用している。他に、イオンスラスタ制御装置(ITCU) などがある。
通信系
地球との通信を行うアンテナは3種各1基が備わっていた。これらのアンテナはデジタル送受信機と接続され、制御装置と地球の地上局との間を電波通信によって接続するのに用いられた。探査機の姿勢や電力状況によって3種のアンテナは切り替えられ、いずれか1つが常に地球との通信を維持するようになっていた。
高利得アンテナ
最大のアンテナは1.6メートルのパラボラ型高利得アンテナ (HGA) であり、イトカワ近辺まで近づいた超遠距離でも、画像伝送を含めた2 - 4 kbpsでのデジタル信号の通信を行えた。HGAはz+軸方向に向けて機体に固定されており、0.7度ほどの細いビーム波であるため、正確に地球と通信するためには高精度の姿勢制御が要求された。
中利得アンテナ
中利得アンテナ (MGA) は、巡航中で通信量も少なく、むしろ太陽電池で発電した電力をイオンエンジンへ優先して配分する必要がある期間に用いられた。ある程度の正確さで地球方向へ向けられれば、最大256 bpsで通信が行えた。
低利得アンテナ
低利得アンテナ (LGA) は、HGAの頂部に付けられており、機体本体や太陽電池の方向、若干の電波干渉方向などを除けば、地球の位置に関わりなく全周方向への通信が行えたが、これは緊急用の通信手段であり、8 bpsときわめて低速度の通信であった。LGAを用いなければならないほど、逼迫した状況下での緊急通信用の通信手段として「1ビット通信」という通信機能が用意されていた。
電源系
太陽電池パネル
太陽電池パネルは本体を挟んで両側に3枚ずつ、計6枚が全体としては「H形」になるよう配置され、z+軸方向に向けて固定されている。太陽電池パネルの裏面は放熱板である。
電池
11セルのリチウムイオン充電池を搭載していた。
「はやぶさ」の推進システム"IES" の構成概略
1.キセノン・タンク 2.流量制御部 3.マイクロ波電源 4.中和器 5.イオンエンジン「μ10」 6.スクリーン 7.アクセル 8.ディセル
IES
中和器内での反応概略
キセノン原子はマイクロ波加熱によってプラズマ化され、正電荷を持つキセノン・イオンと電子に電離する。キセノン・イオンのほとんどは壁面から電子を受け取り、再びキセノン原子となって同じサイクルを繰り返す。生み出された電子は開口部より外部に流れ出る。
図ではマイクロ波による加熱の仕組みは省かれている。
イオン生成チャンバー内での反応概略
キセノン原子はマイクロ波加熱によってプラズマ化され、正電荷を持つキセノン・イオンと電子に電離する。生み出されたキセノン・イオンはグリッドの穴を通って外部に流れ出るが、巧妙に配置された3層のグリッドを通過する間に電位勾配によって30km/秒程まで加速される。電子は正電荷の壁面に引き寄せられ、やがて壁を通って直流電源部に戻って来た電子の流れは中和器へと送られる。
図ではマイクロ波による加熱の仕組みは省かれている。
3枚のグリッド
スクリーン、アクセル、ディセル
軌道制御系
「はやぶさ」には軌道制御を行うための主推進機としてマイクロ波放電式イオンエンジンμ10を中心とするイオン・エンジン・システム (IES) が搭載されていた。μ10はスラスタAからスラスタDとして、計4台が搭載され、他にも多数の装置と組み合わされて宇宙探査機の推進システムとして用いられた。また、姿勢制御にも用いられるRCSが軌道制御にも使用された。
IESのエンジン4台は同一のテーブル上に配置されていた。
以下に「はやぶさ」に搭載されたIESの仕様を示す。
IESの仕様
スラスタ有効直径 105mm × 4
定格推力 8mN × 4
消費電力 1050W (350W x 3)
比推力 3200秒
推力方向制御 2軸ジンバル±5°
マイクロ波電源 進行波管 (4.25GHz x 4)
加速用高圧電源 3台
搭載推進剤 キセノン 66kg (但し、最大積載量は73kg)
推進剤タンク チタン合金製 容量51リットル
構成
IESの構成を示す。「はやぶさ」のIESは「μ10」イオンエンジンと呼ばれるスラスタを4台持ち、それを駆動する直流電源を3台備えるので3基のエンジンまで同時に運転できる。
「μ10」それ自体はイオンの生成・加速部に過ぎず、燃料供給系や中和器、電源系などとともに用いられることで本来の性能が発揮できる。以下に全体の構成を重量とともに示す。
構成と重量
装置 重量
スラスタ x 4 | 9.2kg
マイクロ波電源 x 4 | 9.2kg
直流電源(3台) | 6.3kg
推進剤タンク | 10.8kg
流量制御部 | 6.5kg
ジンバル機構 | 3.0kg
機械計装 | 5.0kg
エンジン制御装置 | 3.5kg
電気計装 | 5.7kg
総計 59.2kg
詳細は「イオンエンジン」を参照

本エンジンは燃料としてキセノンを用いており「イオン生成」「静電加速」「中和」という3段階を経て、キセノン・イオンが約30km毎秒ほどの加速を受けて真空の空間のほぼ一定方向へ放射する仕組みになっている。この陽イオンの放出による反動が、1基あたり8ミリ・ニュートンの定格推力を生む。

イオン生成
イオン生成には電子サイクロトロン共鳴 (ECR) という現象を利用している。燃料タンクから流量制御部を経由してイオン生成チャンバー内に導入された希薄なキセノンガスは、マイクロ波による加熱でプラズマされ、電子とキセノン・イオンに電離する。チャンバー壁面が正電圧に印加されているため、負の電荷を持つ電子は生成と同時に壁面へ引き寄せられて比較的短時間に消滅する。反対に正の電荷を帯びたキセノン・イオン (Xe) は、チャンバー壁面から軽く反発を受けゆるやかに蓄積してゆく。4.25GHzのマイクロ波と1500ガウスの永久磁石によって脈動する電子流が作られ、この高速電子がキセノン原子に次々に衝突することでイオン化を起こす。
静電加速
イオン生成チャンバーに溜まった希薄なキセノン・イオンのガスは、真空中に向けて唯一開口しているグリッドの穴から出て行こうとする。炭素繊維強化炭素複合材料製のグリッドは「スクリーン」「アクセル」「ディセル」という3層から成るが、スクリーン・グリッドには+1500V程度が印加され、アクセル・グリッドには-300V程度が加わり、ディセル・グリッドは0Vの電圧レベルになっている。スクリーン、アクセル、ディセルという3枚のグリッドは0.5mm間隔で並び、それぞれ3mm、1mm、2mmほどの異なる大きさの900個近い穴があけられており、互いの開口位置が正確に合わされている。正の電荷を帯びたキセノン・イオンは、1枚目の+1500V程度が印加されているスクリーン・グリッドを通過する過程で穴の縁から反発を受けて流出コースが細く絞られる。1枚目のスクリーン・グリッドを通過した直後に、2枚目の-300V程度が印加されているアクセル・グリッドに向けて、(1500 + 300 =) 1800 Vの電位勾配の強い加速を受ける。この加速がIESの推進力となる。3枚目の0Vの電位がかかっているディセル・グリッドは、低速なイオンがアクセル・グリッドに戻る事を阻止する働きをする。ディセル・グリッドはイオン・エンジンに必須というものではないが、μ10では長寿命化を求めて備えられている。チャンバー内には電離しなかったものや電離後に電子を吸収するなどしたキセノン原子が存在しており、中性電荷のこの原子はグリッドなどの制約を受けずに自由に飛び出すが、全体の量は比較的少なく、搭載燃料の無駄ではあるが許容されている。
中和
イオン生成を行いキセノン・イオンだけを宇宙空間へ放出すると正の電荷だけが失われ、そのままでは負の電荷が宇宙機に蓄積されて正の電荷を帯びたキセノン・イオンの投射効率が落ち、やがては正イオンの放出そのものが行えなくなる。この蓄積される負の電荷を電子の放出という形で正負をバランスさせる働きをするのが中和器である。中和器には-30Vほどの電圧がかけられる。中和器内には、燃料タンクから流量制御部を経由して希薄なキセノンガスが導入される。イオン生成チャンバーと同様に、マイクロ波加熱によってキセノンガスはプラズマとなり、キセノン・イオンと電子に電離される。イオン生成過程と異なるのは、中和器の壁面が負電位であるため、電子は壁から反発を受けるがキセノン・イオンは引かれる。キセノン・イオンは壁に接すると電子を受け取ってキセノン原子に戻る。キセノン原子はマイクロ波加熱によって電離し、再びプラズマの一部となるので、キセノンは中和器内にある限り同じサイクルを繰り返す。電子は壁から供給され続ける限りキセノンを仲立ちにいくらでも生成されるため、中和器内に充満した電子は唯一の開口部から真空空間へ向けて流れ出す。中和器から出た電子は3層のグリッドを通過してきたキセノン・イオンと結びついてキセノン原子となる。イオン生成チャンバーと同様に、中和器内のキセノンガスやキセノン・イオンも真空中に漏れ出すが、その量は比較的少ないために、搭載燃料の無駄ではあるが許容されている。また、中和器で消費されるキセノンガスは、イオン生成チャンバーに比べると少量で済む。
推進剤の配管系統
リレーボックス
3台の直流電源から4台のスラスタへ配電する。
流量制御部
流量制御部は、1基だけの推進剤タンクから圧力を減じながら4基のスラスタへ必要に応じて適正な圧力でキセノンを供給するために設けられている。推進剤タンクの圧力は、当初は70気圧ほどもあり、運用によって消費されたが地球帰還時でも30気圧ほどあった圧力をスラスタが必要とする0.6気圧程度に下げる働きを果たす。このようにキセノンガスの流量と圧力を調整するために、高圧系と低圧系のそれぞれにラッチング・バルブと非通電時は常に閉じているバルブの2種類を2組と4組に並列にした冗長構成のバルブ群にされており、高圧/低圧の中間にアキュムレータ (ACM) と呼ぶ貯圧タンクを設けることで圧力調節を行っている。低圧側のバルブを閉じた状態で高圧側のバルブを開くと、推進剤タンクからアキュムレータにキセノンガスが流入する。高圧側のバルブを開けておく時間でアキュムレータ内に蓄えられるガス圧を調節する。適正な圧力になれば高圧側のバルブを閉じてから、4系統あるスラスタ側配管の適切な低圧側のバルブを開く。スラスタ側配管では各組ごとのイオン生成チャンバーと中和器が連接されており、片側だけを閉じたり開いたりはできない。
直流電源
直流電源 (IPPU 1 - IPPU 3) は、太陽電池パネルやバッテリーからの電流供給を受けて、キセノン・イオンの加速や中和器の電子放出の原動力となる。このような直流電源は、これまでの宇宙機でも長年培われた通信機用高圧電源技術であるため信頼性が高く、予備などを含めて4基になったスラスタに対しても電源は3台で十分だと判断され、実際にもトラブルは生じていない。
リレーボックス
3台の直流電源からのイオンエンジン駆動用の出力は、4基のエンジンに向けてリレーボックス (RLBX) によって給電が切り替えられるようになっていた。
姿勢制御系
RCS
12基の姿勢制御スラスタの配置。
太陽電池パドルへの影響を避けて、±y面には付けられていなかった。
姿勢制御スラスタ
20ニュートンの推力を持つ2液式の軌道制御用も兼ねた姿勢制御スラスタ (RCS) が±z面の上下4つのそれぞれの角に計8基と±x面の左右に2基ずつの計4基で合計12基あり、軌道制御や姿勢制御に用いられた。RCSにはA系とB系の2系統の配管がある。加圧に不活性なガスを用いている推進剤のタンクは、無重力環境では単にタンクにパイプを繋いだだけでは、その時々の液体の位置によって配管内に流れるものが液体であったりガスであったりして問題がある。燃料であるヒドラジンのタンクと酸化剤の四酸化二窒素のタンクのうち、燃料タンクはゴムなどの袋に充填され周囲から加圧ガスで押すようになっている。酸化剤は腐食性が強いので高分子化合物は用いられず、はやぶさでは金属製のベローズをタンクに収めることで腐食されずに加圧ガスで押すようになっていた。ノズル基部の噴射器から当初は最短で30ミリ秒の、運用中に改良して最短10ミリ秒のパルス状の噴射、もしくはそれ以上の必要な長さの噴射を行なえた。噴射された2つの推進剤は直ちに化学反応を起こして燃焼し、そのガスがノズルを広がりながら一方へ飛び出す反動が推力となるものであり、スケールの違いや加圧ポンプなどがない他は、大型の2液による液体燃料式ロケットと同じしくみだった。
リアクションホイール
ゼロモーメンタム方式による3軸姿勢制御を行う本機では、姿勢制御装置として3軸3基のリアクションホイール (RW) を搭載していた。電力を使用することで角運動量を調節できるリアクションホイールは、RCSのように推進剤を消費しないので長期間の宇宙活動には適するが、機体のモーメントをホイール内に蓄積し続けると月単位では回転数が上限値を迎え「飽和」してしまうため、RCSのような何らかの方法で時折、機体外に無用な回転運動量を放つ「アンローディング」作業が必要になる。

探査機器

宇宙機でのミッション系に相当する探査機器類は、受動的なセンサ系と能動的なサンプル採取関係のものに大きく分けられる。センサ系は小惑星への接近時に用いられる純然たるミッションの誘導用と、ミッション内容によらず宇宙空間内での位置や方向などを知るための航法用のものがあり、両方を兼ねるものもある。

センサ系
外部の状況を知るためのセンサには、スタートラッカ (STT) やジャイロ、それに光学航法カメラ (ONC) 系統などの航法用センサ類と、探査ミッションに関わる対象物の科学的データを得るためのセンサ類が搭載された。また、機体内部の温度や電圧、電流といったセンサもそれぞれの搭載機器に多数が配置され制御系へ測定データを提供していた。
航法用センサ
太陽センサ
太陽の位置を検出することで自機の方向を知る、航法用センサとしては最も基本的なものである。
スタートラッカ
スタートラッカ (STT) は、比較的明るい星の位置を検出することで自機の方向を知る航法用センサである。地球を周回するような近距離では、センサだけ搭載しておいて星図データとの照合は地上にデータ送信することで対応する方法が主体であるが、はやぶさでは星図データを搭載して自ら照合する自立星同定機能を備えていた。本機の実体は30度×40度程度の視野角を持つカメラだった。
光ファイバ・ジャイロ
慣性基準装置 (IRU) とも呼ばれる光ファイバ・ジャイロは3軸ごとに機体の回転運動を測定する。IRUは実績がある米国製の700グラムほどの製品が採用され2台(各3軸計測)が搭載された。
加速度センサ (ACM)
加速度センサは機体の直線加速度を測定する。3軸方向が必要になる。理論上は直線加速度を積算することで宇宙空間内での移動距離が判るはずであるが、微小な加速度の測定は誤差が大きく、ACMだけでは正確な航法・誘導は行えない。
光学航法カメラ (ONC)
3台ある光学航法カメラ (Optical Navigation Camera) は航法用センサであると同時に、科学観測に用いられる探査ミッション用センサでもある。3台のCCDは同種のものが採用され、画像処理回路も1つだけが共通に備え、撮影対象に応じて、底面方向 (-z軸) のONC-T(望遠)/ONC-W1(広角)と側面方向 (y軸) のONC-W2(ワイド)という3つのカメラが切り替えて用いられた。
ONC仕様
【機器】
【レンズ】
【視野角】
【フィルター】
【撮像素子】
【露光時間】
重量
望遠光学航法カメラ (ONC-T) D=15mm, f=120mm F8 | 5.7°x 5.7° | 8バンド分光フィルター | 背面照射型CCD
1,024x1,024画素
(有効画素1,000x1,024) | 5.46ms - 179s | 1.61kg
広角光学航法カメラ (ONC-W1) D=1.1mm, f=10.4mm F9.6 | 60°x 60° | なし | 0.47kg
広角光学航法カメラ (ONC-W2) 0.91kg
アナログ処理回路 (ONC-AE) カメラヘッド駆動・12ビットAD変換 | 1.01kg
デジタル画像処理回路 (ONC-E) 32ビットRISC CPU+画像処理用ASIC | 5.66kg
探査ミッション用センサ
レーザー高度計 (LIDAR)
レーザー測距機とも呼ばれるレーザー高度計 (LIght Detection And Ranging; LIDAR) は、YAGレーザー光を用いた測距装置である。地表の反射率を測定する科学機器としての運用も想定されていた為、計測距離は50m - 50kmと広範囲。また、着陸降下時の距離測定値を利用しイトカワの重量と密度の推定が行われた。
レーザーレンジファインダー (LRF)
レーザーレンジファインダー (Laser Range Finder) は、レーザー光を用いた測距装置であり、LRF-S1とLRF-S2の2台がある。
  • LRF-S1:LIDARが比較的長距離を担当するのに対してLRF-S1は近距離を担当し、30度ほどの角度を持たせた4本のレーザー光を用いて対象面の傾きを測定する。70メートル以下でLIDARと併用し、互いの誤差を確認しながらLRF-S1の測定へ切り替える。LIDARがレーザー単パルス波を用いて反射されて来るまでの伝播時間を計測するのに対して、LRFではFM変調した連続レーザー波を送信して反射波との位相差を計測する。
  • LRF-S2:サンプラーホーンの長さを測る。着地時などにホーンが押されて縮むが、機体側からホーン先端部との距離を計測することで小惑星との接触を検知するようにした。S1/S1共通のデータ処理回路部 (0.91kg) が別にあり、切り替えて使用するためにS1とS2は同時に使えない。
LIDAR、LRF仕様
【機器】
【測定目標】
【計測レンジ】
【誤差】
【計測周期】
重量
LIDAR 機体の高度 | 40m - 60km | ±1m(50m時)
±10m(50km時) | 1回/秒 | 3.67kg
LRF-S1 7 - 100m | ±10cm(10m時)
±3m(100m時) | 5回/秒 | 1.45kg
LRF-S2 サンプラーホーンの長さ | 0.5m - 1.5m | ±1cm | 20回/秒 | 0.41kg
ファンビームセンサ (FBS)
ファンビームセンサ (Fan Beam Sensor) は、レーザー光を利用した障害物検出器であり、送信機/受信機のセットが探査機両側面に各2か所、合計4セットが配置されていた。イトカワへの着地(タッチダウン)では、探査機本体が未知の地形へ降下するため、起伏が予想以上に大きい場合に備えて、太陽電池パネルの下方空間をレーザービームで扇状にスキャンすることで10cm大程度の岩石の突出部がパネルに接触する前に再上昇して接触回避できるように考えられていた。
近赤外分光器 (NIRS)
0.8 - 2.1μmの近赤外線領域を測定する分光器である。InGaAs素子による64画素が1列に並んだ光学的な検出器である。視野角0.1度×0.1度で取り込んだ検出光を、透過型回折格子によって波長ごとに分散させ、0.8 - 2.1μmの領域を64バンドで光量を検出する。イトカワを構成する岩石などの組成を知るために、太陽からの反射光を小惑星の表面で測定し、主にケイ酸塩鉱物による吸収スペクトル線を知ることで、組成に関する情報を得るものである。AMICAの可視光領域の情報と合わせれば、より詳細な鉱物組成が推定できる。NIRSとXRSはコントローラと電源を共有している。
蛍光X線スペクトロメータ (XRS)
X線蛍光分光器とも呼ばれるXRS (X-Ray Spectrometer) は、3.5度×3.5度の視野角を持ち、1.0 - 10keVのエネルギー帯域のX線を160eVの分解能で検知することができる。本来の小惑星の組成を検知する底面に取付けられたセンサー部にはX線CCD素子が4枚用いられており、太陽活動によってX線の放射量が変化するのを補正するための側面に飛び出した位置にある標準試料を捉えている別に1枚が使用され、合計5枚のX線CCD素子が搭載されている。センサー部だけで1.7kgの重量であり、センサー部とは別にXRS用の電子回路が共通電子回路部内に収納されている。オンボードコンピュータ(OBC)としてSTRAIGHTプログラムで開発されたSH-OBCを採用し、当時惑星探査用としては高速だったSH-3(SH7708)の三重冗長系によって観測画像の機上解析を実現した。
可視分光撮像カメラ (AMICA)
AMICA (Astroid Multiband Imaging Camera) は、航法用カメラ"ONC-T"の別名であり、航法では元々不要な機能である分光用の8域の分光フィルターホイールが探査用として備わっている。1つのバンドは航法に用いる場合の350 - 950nmまでの全域を通過させるものであり、残る7つのフィルターが、360nm, 430nm, 545nm, 705nm, 860nm, 955nm, 1025nmを通すようになっている。偏光フィルターもCCDの四隅に備えられていて、小惑星に接近した時に表面の粒子サイズを検出することになっていた。
ターゲットマーカー
はやぶさはイトカワ上に短時間だけ接地して岩石等の試料を採集するが、その着陸を安全に行うために、広角カメラ"ONC-W1"の撮影によって横軸方向の移動速度を安全値である毎秒8cm以内に収めるよう降下軌道を制御するが、その際の良好な画像を得るのにターゲットマーカーが用いられる。イトカワに30m程まで接近したはやぶさは、底面にぶら下げた状態のターゲットマーカーの固定ワイヤーを火工品、つまり火薬で焼き切る。はやぶさはRCSで自らは減速することで、ターゲットマーカーを先に着陸地点となるイトカワ上に落としておき、ゆっくり接近しながら、"ONC-W1"はフラッシュで照らした画像と照らさない暗い画像を簡単な内部演算することで、ターゲットマーカーの位置を知る。複数回この処理を行うと、横方向の移動速度を知ることができる。
ターゲットマーカーは重力の小さなイトカワ上で弾まずに確実に定着するように、薄いアルミ製の袋にポリイミド粒を収めたお手玉のような構造に作られており、転がり防止用の4つのとげが付けられていた。フラッシュに対して明るい反射を得るため、表面は再帰性反射シート(民生品)で覆われていた。
サンプラー系
イトカワ表面からサンプルを採取するサンプラーは、5つのサブシステムから構成されている。
  • プロジェクタ
  • サンプラーホーン
  • サンプルキャッチャー/カプセル蓋
  • 搬送機構
  • サンプルコンテナ
プロジェクタ
プロジェクタは弾丸(プロジェクタイル)を下方へ向けて打ち出し、イトカワ表面の岩石などを飛散させてサンプルとしてホーン内に飛び上がらせる役割を持つ。3本の棒状の発射装置がサンプラーホーンの基部外面に備わり、電気発火によって推進薬に点火されることで、5gのタンタル製の弾丸が各1発ずつ順番に発射されると秒速300mで飛び出してイトカワ表面を打つ。ホーンの基部にはアルミ箔の膜が付いた穴が3か所開いており、それぞれのプロジェクタがこれらに合わせて取り付けられている。点火後、弾丸は推進薬の圧力によってアルミニウム製のサボと共に前進し、弾丸はプロジェクタから飛び出すが、サボはプロジェクタ内に留まり変形して銃口を塞ぐので、発射ガスがホーン内に吹き込まれてサンプルや地面を汚染することはほとんどない。弾丸は穴からホーン内に入射されると、下部ホーン下端の中央付近に飛ぶように照準されている。弾丸はタンタル製であるため、小惑星の岩石組成とは区別が付きやすいとされる。プロジェクタの発射命令は、ホーンの長さを測るLRF-S2が1cmの短縮を検出することで出されることになっていた。
サンプラーホーン
サンプラーホーンは、先端部の内径が20cmで全長1mほどのほぼ円筒形をした中空の管である。上部ホーンと下部ホーンはアルミニウム製の円錐形であり、ホーン全体の外形を保ちながら、舞い上がったサンプルを最上部へと誘導する働きをする。中部ホーンは耐弾性がある布を円環で支えた蛇腹構造になっていて、打ち上げ時には畳まれ、宇宙空間で伸ばされるようになっている。舞い上がったサンプルがホーンを破って機体に損傷を与えないように強靭な布が選ばれており、機体自身が地面に接触しないように距離を稼ぐと同時に接地時の衝撃吸収も担っている。下部ホーンの周囲にはダストガートというスカートがあり、ホーンに入らなかったサンプルが機体側に飛び上がって障害を起こさないように考慮されている。
サンプルキャッチャー/カプセル蓋
サンプルキャッチャーは直径48mm、高さ57mmの円筒形の容器であり、内部はA室とB室に隔てられている。上部ホーンから導かれたサンプルは45度に傾いた反射板に当たることで進路が横向きに修正されて、1回目のサンプル収集ではB室に格納され、次にA室に格納される。2室の切り替えは120度(1/3回転)ごとに2方向の開口部を持つ回転ドア式の回転筒キャップによって行われ、最後の1/3回転によってこれがそのまま蓋となる。サンプルキャッチャーの一方にはカプセル蓋が固定されている。
搬送機構
サンプルキャッチャーをサンプルコンテナ内に移動させるのが搬送機構の役割である。サンプルの収集を終えて、サンプルキャッチャーをサンプルコンテナ内に移動するには、まず、サンプルキャッチャーに挿入されているホーン上端部を下げる。次に、形状記憶合金製のバネに通電してサンプルキャッチャーとカプセル蓋を押し、これらをサンプルコンテナ内に挿入する。ラッチ・シール機構に対して信号を送り、ラッチによってカプセルにカプセル蓋を固定する動作と、Oリングによる真空シールを保つ動作を同時に行う。カプセル側と結んでいた信号ケーブルを火工品によるワイヤーカッターで切断した。
サンプルコンテナ
サンプルコンテナは帰還カプセル内の中央に位置しており、サンプルキャッチャーを格納する容器である。宇宙空間でサンプルキャッチャーを収容したサンプルコンテナは、サンプルキャッチャー側の2重のOリングと共にサンプルキャッチャーとサ
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出典:wikipedia
2020/03/29 17:49

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