東日本大震災(ひがしにほんだいしんさい)は、2011年(平成23年)3月11日14時46分18.1秒に発生した東北地方太平洋沖地震による災害およびこれに伴う福島第一原子力発電所事故による災害である。大規模な地震災害であることから大震災と呼称される。東日本各地での大きな揺れや、大津波、火災等により、東北地方を中心に12都道県で2万2000人余の死者(震災関連死を含む)・行方不明者が発生した。これは明治以降の日本の地震被害としては関東大震災、明治三陸地震に次ぐ規模となった。沿岸部の街を津波が破壊し尽くす様子や、福島第一原子力発電所におけるメルトダウン発生は、地球規模で大きな衝撃を与えた。
発生した日付から3・11(さんてんいちいち、さんいちいち)と称することもある。
2011年(平成23年)3月11日(金曜日)14時46分18.1秒(日本時間)、宮城県牡鹿半島の東南東沖130キロメートル (km)(北緯38度06.2分、東経142度51.6分、深さ24 km)を震源とする東北地方太平洋沖地震が発生した。地震の規模はモーメントマグニチュード (Mw) 9.0で、発生時点において日本周辺における観測史上最大の地震である。
震源域は広大で、岩手県沖から茨城県沖までの南北約500 km、東西約200 kmのおよそ10万平方キロメートル (km) に及ぶ。最大震度は宮城県栗原市で観測された震度7で、宮城・福島・茨城・栃木の4県36市町村と仙台市内の1区で震度6強を観測した。観測された最大加速度は宮城県栗原市のK-NET築館(MYG004)観測点で記録された2,933ガル。
発生当日(3月11日)の16時20分に気象庁は、この地震現象に対して「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」(英: The 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake)と命名した。これに対し、メディアや組織・団体は、地震による災害(震災)に着目して、「東日本大震災」や「東北関東大震災」などの呼称を任意に用いていた。
同年4月1日に、日本政府(当時は菅直人内閣)は持ち回り閣議で、当地震によってもたらされた災害(震災)を指す名称を「東日本大震災」とすることを了解し、当時内閣総理大臣の菅直人が平成23年度予算成立を受けての記者会見で発表した。これ以降、地震の現象を指す「東北地方太平洋沖地震」と、それによってもたらされた災害を指す「東日本大震災」という二つの用語が並立した(震災#地震現象の命名と震災の命名を参照)。ただし地震そのものについても「東日本大震災」の名称を用いるメディアもある。 気象庁は、現象の名称と災害(震災)の名称との違いに注意を喚起している。
なお、政府による災害名統一以前に使用されていた、震災の主な名称として以下のものがある。「大震災」だけではなく、「大地震」や「巨大地震」も震災を指して使われていた。
閣議によって震災の名称が決定したので、日本赤十字社の義援金受付口座名も変更された。
また、この震災で発生した津波に対して、地元紙を中心に一部で「平成三陸津波」の呼称を使用している。しかし、政府など公的機関は名称を定めていない。
この地震により、場所によっては波高10メートル (m) 以上、最大遡上高40.1 mにも上る巨大な津波が発生し、東北地方と関東地方の太平洋沿岸部に壊滅的な被害が発生した。また、巨大津波以外にも、地震の揺れや液状化現象、地盤沈下、ダムの決壊などによって、北海道南岸から東北地方を経て東京湾を含む関東南部に至る広大な範囲で被害が発生し、各種インフラが寸断された。
2019年(令和元年)12月10日時点で、震災による死者・行方不明者は1万8428人、建築物の全壊・半壊は合わせて40万4893戸が公式に確認されている。震災発生直後のピーク時においては避難者は約47万人、停電世帯は800万戸以上、断水世帯は180万戸以上等の数値が報告されている。復興庁によると、2019年7月30日時点の避難者等の数は5万271人となっており、避難が長期化していることが特徴的である。
日本国政府は、震災による直接的な被害額を16兆円から25兆円と試算している。この額は、被害が大きかった岩手・宮城・福島の3県の県内総生産の合計に匹敵する(阪神・淡路大震災では兵庫県1県の県内総生産の半分ほどであった)。世界銀行の推計では、自然災害による経済損失額としては史上1位としている。
警察庁は、2019年(令和元年)12月10日時点で、死者は1万5899人、重軽傷者は6157人、警察に届出があった行方不明者は2529人であると発表している(ただし未確認情報を含む。余震によるものを含む)。日本国内で起きた自然災害で死者・行方不明者の合計が1万人を超えたのは第二次世界大戦後初めてであり、明治以降でも関東大震災、明治三陸地震に次ぐ被害規模であった。岩手・宮城・福島の3県を中心に、1都1道10県で死者・行方不明者が、また1都1道18県で負傷者が発生した。
警察庁は2012年3月11日までに、岩手県、宮城県、福島県で検死された1万5786人の詳細を発表した。
岩手、宮城、福島の3県では、腕や脚などが見つかり身元が判明したものの、頭部未発見のために死者に計上されていない人が2016年6月10日時点で171人いる。「親指だけ見つかっても、亡くなっているとは限らない」などの理由による。この数を行方不明者数から除外するかどうかは3県で判断が分かれている。
静岡大学防災総合センターは、津波の浸水範囲の居住者数に対する死者、行方不明者数の割合をまとめ、明治三陸地震と比較した。それによると、最大は宮城県女川町の11.97 %、次いで岩手県の大槌町と陸前高田市でともに11.72 %となった。明治三陸地震については、浸水域ではなく市町村の人口に対する犠牲者の割合を出したが、岩手県釜石市で約50 %になるなど11市町村で15 %を超えており、今回の津波では防災対策に一定の効果があった可能性がある。
東日本大震災では避難所の不衛生や寒さなどが原因で、避難後に死亡する例(震災関連死)が高齢者を中心に相次いでいる。復興庁では震災関連死の死者を「東日本大震災による負傷の悪化などにより死亡し、災害弔慰金の支給等に関する法律に基づき、当該災害弔慰金の支給対象となった者」と定義している。復興庁によると、2019年9月末時点での集計で3,739人(福島県2,286人、宮城県928人、岩手県469人など)が震災関連死に認定されている。死亡した時期別にみると、震災発生から1週間以内は472人、8日後以降1か月以内は743人、2か月目以降1年以内は1,587人で、5年目でも105人いる。福島県内の震災関連死による死者数は地震や津波による直接死者数を上回っている。福島県の震災関連死の大部分は、原発事故の避難の影響で体調が悪化するなどして死亡した「原発関連死」とみられ、『東京新聞』の2016年3月時点での集計によると、福島県内の少なくとも1,368人が原発関連死であった。
地震から約1時間後に遡上高14 - 15 mの津波に襲われた東京電力福島第一原子力発電所は、1 - 5号機で全交流電源を喪失した。原子炉を冷却できなくなり、1号炉・2号炉・3号炉で炉心溶融(メルトダウン)が発生。大量の放射性物質の漏洩を伴う重大な原子力事故に発展した(→福島第一原子力発電所事故)。この事故は国際原子力事象評価尺度で最悪のレベル7、チェルノブイリ原子力発電所事故と同等に位置づけられている。同原発の立地する福島県浜通り地方を中心に、周辺一帯の福島県住民の避難は長期化するとともに、2012年からは「帰還困難区域」「居住制限区域」も設定された(→福島第一原子力発電所事故の影響)。そのほか、火力発電所などでも損害が出たため、東京電力の管轄する関東地方は深刻な電力不足に陥り、震災直後の一時期には日本国内では65年ぶりに計画停電が実施された。計画停電は東北電力管内でも震災直後に実施されたほか、翌2012年の夏前には関西電力管内でも大飯発電所(大飯原発)の再稼働を巡って論議が起き、計画停電の可能性が議論された。
東日本大震災被災地には、福島第一のほか、以下の原子力発電所があった。いずれも結果的に重大な原子力災害には至らなかったが、外部電源喪失、非常用発電機の破損、原子炉冷却用海水ポンプの破損など、重大な原子力災害一歩手前に追い込まれる発電所もあった。このうち福島第二原子力発電所では、第一原発と同様に冷却機能を喪失し、原子力災害対策特別措置法に基づく10条通報、原子力緊急事態宣言発令に至った。
警察庁は2019年12月10日時点、全壊12万1991戸、半壊28万2902戸、全半焼297戸、床上浸水1628戸、床下浸水1万0076戸、一部破損73万0251戸の被害が出たと発表している。特に岩手県・宮城県・福島県の沿岸部では、津波によって多くの住宅が流され、全壊戸数は岩手県で1万9508戸、宮城県で8万3005戸、福島県で1万5435戸に上った。
千葉県市原市の「コスモ石油千葉製油所」LPGタンクが爆発炎上、この影響で近隣の劣化ウラン保管施設に延焼したほか、東北地方や茨城などでは、多くの製油所や工場で被災して操業を停止し、産業界にも幅広く影響が出た。また、北海道・東北・関東の多くの文教施設で、建物の損壊や浸水などの被害が発生した。4月6日までに文化庁により被害が確認された文化財は463件に上っている。
関東・東北地方の広い範囲で液状化現象が発生し、千葉県千葉市美浜区・浦安市・香取市・我孫子市、東京都江東区・江戸川区、神奈川県横浜市の八景島周辺、茨城県ひたちなか市・潮来市、宮城県大崎市の江合川周辺などで、建築物の傾斜や断水、ガス供給停止、水田への土砂の堆積などの被害が生じた。東京湾岸の埋立地や千葉県北東部から茨城県鹿行地域南部にかけての利根川沿い(水郷地帯)での被害が目立ち、自治体により液状化の危険度が低いと認定されていた地域でも被害が発生した。
東北地方から関東地方北部の太平洋沿岸では地震に伴う地盤沈下により、海岸や河口付近などで浸水や冠水のおそれが出ている。宮城県石巻市塩富町では、満潮時に町全体が水没している。また津波によって東北・関東の6県で2万3600ヘクタールの農地が流失または冠水しており、塩害も発生したため、農林水産省は3年後の完了をめどにがれきの撤去や土中の塩分の除去を進める方針を固めたと報道された。
満潮で冠水する国道398号(2011年3月30日、宮城県石巻市湊町2丁目・吉野町付近)
津波被害の大きかった宮城県を中心に、330件の火災が発生した。そのうち、出火原因の159件(約40 %)が津波火災、約30 %が電気火災であった。また、停電下の避難中に灯りとして使用していた蠟燭などからの火災による死者も報告されている。他に、数日から数週間後に堆積していたがれきがバクテリアなどによる発酵で加熱して発火した事例や、海水に浸水した車両の電装部が劣化して発火した事例も報告されている。
警察庁は2019年12月10日時点、4,198箇所で道路の損壊があったと発表している。岩手県山田町の船越半島や宮城県の南三陸町、 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・