自衛隊(じえいたい、英: Japan Self-Defense Forces、略称: JSDF、 SDF )は、自衛隊法に基づき、日本の平和と独立を守り、国の安全を保つために設置された部隊および機関。
事実上の軍事組織であり、国際法上は軍隊として扱われる。陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊の3部隊から構成され、最高指揮官たる内閣総理大臣および隊務統括を担う防衛大臣による文民統制(シビリアン・コントロール)の下、防衛省によって管理される。1954年(昭和29年)7月1日設立。
イギリスの有力シンクタンクである国際戦略研究所(IISS)の年次報告書「ミリタリー・バランス」では、2020年の日本の防衛費は世界第8位に位置付けられている。
日本国憲法第9条の下、専守防衛に基づき、国防の基本方針および防衛計画の大綱の定めるところにより、“国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛すること”を基本理念とする(自衛隊法第3条第1項)。内閣総理大臣が内閣を代表して最高指揮監督権を有し、防衛大臣が隊務を統括する。陸、海、空の三自衛隊を一体的に運用するための統括組織として統合幕僚監部が置かれ、防衛大臣は統合幕僚長を通じて、陸海空自衛隊に命令を発する。
自衛隊法上の「自衛隊」とは、自衛隊員 として含まれない「防衛大臣、防衛副大臣、防衛大臣政務官、防衛大臣補佐官、防衛大臣政策参与、及び防衛大臣秘書官」なども含めた防衛省の「事務次官並びに防衛省の内部部局、防衛大学校、防衛医科大学校、防衛会議、統合幕僚監部、情報本部、防衛監察本部、地方防衛局、防衛装備庁、その他の機関並びに陸上自衛隊、海上自衛隊及び航空自衛隊を含むもの」(自衛隊法第2条第1項)とされ、これは「防衛省」とほぼ同一の組織に相当する。一般的には国の行政機関という面から見た場合は「防衛省」、部隊行動を行う実力組織としての面から見た場合は「自衛隊」として区別されて用いられることが多い。
日本国憲法第9条は国際紛争を解決する手段としての「戦争の放棄」と「戦力不保持」、ならびに「交戦権の否認」を定めているが、政府見解によれば憲法は自衛権の放棄を定めたものではなく、その自衛権の裏付けとなる自衛のための必要最小限度の実力は憲法第9条第2項にいう「戦力」には該当しない。よって、日本を防衛するため必要最小限度の実力を行使することは当然に認められており、これは交戦権の行使とは別の観念であるという立場に立っている。こういった憲法上の制約を課せられている自衛隊は、通常の観念で考えられる軍隊とは異なるものであるが、他方、自衛隊は国際法上は軍隊として取り扱われており、自衛官は軍隊の構成員に該当するものとされている。
2013年12月17日、「国防の基本方針」に代わるものとして「国家安全保障戦略」 が策定された。
自衛隊の公式な英称はJapan Self-Defense Forcesであるが、日本国外において陸海空の各自衛隊は日本の実質的な国軍(Japanese military force あるいは Japanese armed force)として認知されており、陸上自衛隊は Japanese Army(日本陸軍の意)、海上自衛隊は Japanese Navy(日本海軍の意)、航空自衛隊は Japanese Air Force(日本空軍の意)に相当する語で表現されることがある。なお、英語で"right of self-defense"の語は国際法上「自衛権」を意味し、"Self-Defense Forces"は「自衛権を行使するための軍隊」と解釈できる。(国際連合憲章第51条の英文も参照されたい。)
陸上自衛隊 は1950年(昭和25年)の朝鮮戦争勃発時、GHQの指令に基づくポツダム政令により警察予備隊が総理府の機関として組織されたのが始まりである。同時期、旧海軍の残存部隊は海上保安庁航路啓開本部と各管区海上保安本部航路啓開部となり、日本周辺の機雷処分を実施したほか、旧海軍軍人主導により、将来の海上防衛力の母体として独立することを視野に入れた「スモール・ネイビー」として海上警備隊が設立された。その後、海上警備隊は警備隊に再編され、各管区海上保安本部航路啓開部は航路啓開隊として警備隊に統合された。1952年(昭和27年)8月1日には警察予備隊と警備隊を管理運営のための総理府外局として保安庁が設置された。同年10月15日、警察予備隊は保安隊に改組された。そして1954年(昭和29年)7月1日、「自衛隊の任務、自衛隊の部隊の組織及び編成、自衛隊の行動及び権限、隊員の身分取扱等を定める」(自衛隊法第1条)自衛隊法(昭和29年6月9日法律第165号)が施行され、保安隊は陸上自衛隊に、警備隊は海上自衛隊 に改組されたほか、新たに諸外国の空軍に相当する航空自衛隊 も新設され、陸海空の各自衛隊が成立した。また同日付で防衛庁設置法も施行され、保安庁は防衛庁に改組された。
自衛隊創設当時、陸軍士官学校、海軍兵学校などの旧軍の軍学校を卒業した旧陸海軍正規将校が幹部自衛官として、陸海空三自衛隊の幕僚機関の主流を占めていたほか、実働部隊の指揮中枢において直接22万人の自衛隊員を動かす立場にあった。これにより、創設当時の自衛隊は旧陸海軍正規将校の強い影響下で戦力を整備し、隊風を育ててきた。旧陸海軍で大佐や中佐だった幹部自衛官の多くが定年退官し、防衛大学校出身の幹部自衛官が年々増加していた1967年(昭和42年)においても、陸上自衛隊には2288人、海上自衛隊には1563人、航空自衛隊には1063人の、計4914人の旧陸海軍正規将校が幹部自衛官として務めており、自衛隊幹部現員の15.3%を占めていた。また、1969年(昭和44年)当時の自衛隊幹部における旧陸海軍出身者の割合は、将クラスで80%、一佐で78%、二佐で66%、三佐で21%であった。
自衛隊は創設以来、ソビエト連邦の日本侵攻を想定してアメリカ軍と共同作戦を行うことを国防の大前提としていた。自衛隊の統合幕僚会議議長と在日米軍司令官が署名し、防衛庁防衛局長を通じて防衛庁長官に報告されていた「共同統合作戦計画」のシナリオによれば、北海道へのソビエト連邦軍の上陸侵攻に際して、まずは自衛隊が独力で対処し、1週間から2ヶ月かけて数次に分かれて到着するアメリカ軍の来援を待つことになっていた。共同統合作戦計画は毎年改定されていたほか、陸海空自衛隊は共同統合作戦計画を前提として、毎年度の日本防衛計画である「年度防衛警備計画(年防)」を策定していた。
冷戦後は、1990年の湾岸危機をきっかけに新たな役割を模索するようになり、国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(PKO協力法)によって自衛隊はカンボジアや東ティモールに部隊や要員の派遣を行ったほか、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件を機に、「日米安保のグローバル化」が進行し、自衛隊とアメリカ軍による日米防衛協力の領域は日本周辺や極東地域から、中東やインド洋へと拡大し、本土防衛を主任務としてきた自衛隊の任務の変容も進んでいる。イラク戦争においては、アメリカ軍主導の多国籍軍の一翼を担う形で、イラク南部のサマーワに人道復興支援活動を目的として、陸上自衛隊の部隊が派遣された。
2006年(平成18年)3月27日、統合幕僚会議及び同事務局を廃止し、統合幕僚監部が新設された。ほか、2007年(平成19年)1月9日、防衛庁は防衛省に昇格した。2015年(平成27年)6月10日、「防衛省設置法等の一部を改正する法律(平成27年法律第39号)」が可決・成立し、同年10月1日の防衛省設置法改正法施行により、内局の運用企画局が廃止され、部隊運用に関する事務が統合幕僚監部へ一本化されたほか、技術研究本部及び装備施設本部が廃止され、新たに防衛装備庁が防衛省の外局として設置された。
自衛隊はシビリアン・コントロール(文民統制)の原則の下、文民で構成される内閣、立法府である国会の統制下に置かれている。内閣総理大臣は内閣を代表して自衛隊の最高指揮監督権を有し、防衛大臣が自衛隊の隊務を統括する。また、内閣には関係閣僚等で構成される国家安全保障会議が置かれ、防衛に関する重要事項を審議する。自衛隊の防衛出動や治安出動等にあたっては事前又は事後の国会承認を要し、また国会は自衛隊に係る定員、予算、組織などの重要事項の議決を通じて自衛隊を統制する。
陸・海・空の各自衛隊はすべて防衛大臣の直轄部隊から構成され、各自衛隊の隊務に係る防衛大臣の幕僚機関として陸上幕僚監部、海上幕僚監部及び航空幕僚監部が置かれている。更に各自衛隊を統合運用するための幕僚機関として統合幕僚監部が置かれ、自衛官の最上位者である統合幕僚長がこれを統括する。防衛大臣は各幕僚長を通じて各自衛隊に命令を発するが、部隊の運用に関しては全て統合幕僚長を通じて行うものとされている。各幕僚長は「最高の専門的助言者」として防衛大臣を補佐し(自衛隊法第9条第2項)、部隊等に対する防衛大臣の命令を執行する。
防衛事務次官は待遇等の面では統合幕僚長と同格であるが、「その省の長である大臣を助け、省務を整理し、各部局及び機関の事務を監督する」(国家行政組織法第18条2項)ものとされ、防衛省・自衛隊の機関全般にわたって監督権限を有する。
その他、防衛省の所掌事務に関する基本的方針について審議する機関として、防衛大臣、防衛副大臣、防衛大臣政務官、防衛大臣補佐官、防衛大臣政策参与、事務次官、防衛審議官、内局の官房長と各局長、統合・陸・海・空幕僚長、情報本部長、防衛装備庁長官で構成される防衛会議が設置されている。
特別裁判所の設置が憲法で禁止されているため、軍法会議(軍事裁判所・軍事法廷)は置かれていない(従って、軍事刑務所の類は無く、被疑者は一般同様検察庁へ送致される。微罪は別にして、禁錮以上の罪で立件される等で重大な反社会的行為に関与したと判断された場合は懲戒免職されることがあり、また懲戒免職されなくても禁錮以上の罪が確定すれば失職する)。諸外国の憲兵に相当する部隊は陸・海・空の各自衛隊に警務隊として組織されている。
高度な装備を保有するが、総兵力は約24万人(うち女性1万2,300人)と対人口比で主要国中最低水準である。年間防衛予算も約4兆7千億円で絶対値的でこそ世界的に上位に位置するものの、対GDP比では1%を割って主要国中最低水準である。予算は陸海空で概ね4:3:3の比率であり、予算総額の約44%は人件費で、装備品の調達費は、比較的高額な水準となっている。戦力維持のために若年定年退職制度を導入しており、多くの自衛官の定年退職が53歳である。
近年、国家財政の悪化と少子高齢化のために防衛予算と兵力は減少傾向にあったが、周辺国、特に中国の軍拡や尖閣諸島問題の影響で2013年度以降は対前年比で増加に転じた。また、自衛隊が保有する装備の維持・運用・管理などにおいて他の西側諸国と同じく日米安全保障条約による同盟国アメリカに強く依存している装備も多く、実戦におけるノウハウ習得や幹部自衛官教育、新型装備に関する技術講習などでもアメリカ(在日米軍)との協力関係が重要視されている。
諸外国の陸軍に当たる組織であり、日本に対する海外勢力による上陸作戦を防止し、上陸された場合にはこれに対処することを主な任務とする。前身組織は保安隊(警察予備隊)。普通科いわゆる歩兵を基軸として、戦車、装甲車、榴弾砲、対戦車ロケット弾、対戦車ミサイル、地対空ミサイル、地対艦ミサイル、ヘリコプターなどを保有する。英称 Japan Ground Self-Defense Force、略称 JGSDF。諸外国からは Japanese Army(日本陸軍の意)に相当する語で表現されることがある。
陸上自衛隊の部隊は、方面隊、陸上総隊その他の防衛大臣直轄部隊から構成され、その所掌事務に係る幕僚機関として陸上幕僚監部が設置されている。定数は約15万2千(即応予備自衛官を除く)であり、三自衛隊の中で最大だが、振り分けられる予算は約1兆7千億円と、海、空自衛隊に大差は無い。小銃をはじめ、戦闘車輌や一部の航空機は国産品を装備しているが、輸入やライセンス生産による装備品もある。遠隔操縦観測システム(FFOS)のような無人航空機の運用能力も持つが、指揮通信能力、統合作戦能力は整備途上にある。各方面隊が担当地域の防衛警備を担っている。また、島国という地理上、離島への武力侵攻に備えた水陸機動団も配備されている。
諸外国の海軍に当たる組織であり、海洋国家である日本の防衛力の中核を担っている。前身組織は警備隊(海上警備隊)。護衛艦、潜水艦、機雷戦艦艇、輸送艦、対潜哨戒機、ヘリコプターなどを保有する。英称Japan Maritime Self-Defense Force、略称JMSDF。諸外国からはJapanese Navy(日本海軍の意)に相当する語で表現されることがある。
海上からの侵略を阻止し、また艦船、航空機、潜水艦等の脅威を排除して、海上交通の安全を確保することを主な任務とする。年間を通じて、日本周辺海域の哨戒任務を行っており、国籍不明潜水艦や他国の艦艇、不審船、遭難信号などを探知した場合は、哨戒機をスクランブル発進させ、護衛艦が緊急出港し、対象目標を継続追尾する態勢に移行する。また、弾道ミサイルの監視、迎撃任務も負っている。実質的には外洋海軍としての能力を有し、対潜水艦戦や対機雷戦では高い能力を有する。
海上自衛隊の部隊は、自衛艦隊、地方隊、教育航空集団、練習艦隊その他の防衛大臣直轄部隊から構成され、その所掌事務に係る幕僚機関として海上幕僚監部が設置されている。定数は約4万5千であり、予算は約1兆5百億円。艦艇、潜水艦、航空機、各陸上基地を運用する。日本が海洋国家であり、通商貿易国家であることから、シーレーンの安全確保を重視し、太平洋戦争(大東亜戦争)の戦訓から 対潜水艦戦能力と対機雷戦能力に重点を置いている。
保有するイージス艦の一部にはBMD能力が付与されており、ミサイル防衛の中核を担う。いずも型護衛艦、ひゅうが型護衛艦やおおすみ型輸送艦は離島防衛や大規模災害対処のシーベースとしても活動できる。
いずも型護衛艦一番艦「いずも」が2015年(平成27年)3月に就役し、海自保有艦艇としては歴代最大の自衛艦となった。