金(きん、英: gold、羅: aurum)は原子番号79の元素。第11族元素に属する金属元素。常温常圧下の単体では人類が古くから知る固体金属である。こがね、くがねとも呼ばれる。
見かけは光沢のあるオレンジがかった黄色すなわち金色に輝く。金属としては重く、軟らかく、可鍛性がある。展性と延性に富み、非常に薄く延ばしたり、広げたりすることができる。同族の銅と銀が比較的反応性に富むこととは対照的に、標準酸化還元電位に基くイオン化傾向は全金属中で最小であり、反応性が低い。金を溶解する水溶液としては、王水(塩化ニトロシル)、セレン酸(熱濃セレン酸)、ヨードチンキ、酸素存在下でのシアン化物の水溶液がある。熱水鉱床として生成され、そのまま採掘されるか、風化の結果生まれた金塊や沖積鉱床(砂金)として採集される。
これらの性質から、金は多くの時代と地域で貴金属として価値を認められてきた。化合物ではなく単体で産出されるため精錬の必要がなく、装飾品として人類に利用された最古の金属で、美術工芸品にも多く用いられた。銀や銅と共に交換・貨幣用金属の一つであり、現代に至るまで蓄財や投資の対象となったり、金貨として加工・使用されたりしている。ISO通貨コードでは XAU と表す。また、医療やエレクトロニクスなどの分野で利用されている。
元素記号Auは、ラテン語で金を意味する aurum に由来する。大和言葉で「こがね/くがね(黄金: 黄色い金属)」とも呼ばれる。
日本語では、金を「かね」と読めば通貨・貨幣・金銭と同義(すなわちお金)である。金属としての金は「黄金」(おうごん)とも呼ばれ、「黄金時代」は物事の全盛期の比喩表現として使われる。「金属」や「金物」(かなもの)といった単語に金の字が含まれるように、古くから金属全体を代表する物質として見られた。
原子番号は79であり、貴金属としては最も大きい。 金は単体では金色と呼ばれる光沢のあるオレンジがかった黄色の金属であるが、非常に細かい粒子状(金コロイド)にすると黒やルビー色に見える場合があり、時には紫色になる。これらの色は金のプラズモン周波数によるもので、主に黄色と赤色を反射して、青色を吸収する。このため、薄い金箔を光にかざすと、反射と吸収の谷間にあたる緑色に見える。化合率が低めだが、合金が多く、頻繁に色が変わってしまう。
展性・延性に優れ、最も薄く延ばすことができる金属である。1グラムあれば数平方メートルまで広げることができ、長さでは約3000メートルまで延ばすことができる。平面状に延ばしたものを「金箔」(きんぱく)、糸状に延ばしたものを「金糸」(きんし)と呼ぶ。華美な衣装を作るために、金糸は綿や絹など一般的な繊維素材と併用される。逆に大きな展延性が精密加工時や加工後の製品では、耐久性が悪いという弱点にもなる。
他の金属と同様に合金とすることが容易である。合金化は金にとっては硬度を上げることができ、他の金属にとっては伸長性が増し、本来の金色以外に変化に富んだ色調の地金とすることができる。銅との合金は赤く、鉄は緑、アルミニウムは紫、ガリウムやインジウムは青、パラジウムやニッケルは白、ビスマスと銀が混ざった物では黒味を帯びた色調になる。自然に存在する金には通常、10%程度の銀が含まれており、銀の含有率が20%を超える物はエレクトラム、青金または琥珀金と呼ばれる。さらに銀の量を増やしていくと、色は次第に銀白色になり、比重はそれにつれて下がる。
金は熱伝導、電気伝導ともに優れた性質を持ち、空気では浸食されない。熱、湿気、酸素、その他ほとんどの化学的腐食(通常の酸やアルカリ)に対して非常に強い。そのため、貨幣の材料や装飾品として古くから用いられてきた。
一方、金はある特殊な条件下で化合物を生成する。
化合物中での金の安定な原子価は+1, +3であり、化合物あるいは水溶液中において Au など単純な水和イオンは安定でなく、 および など主に錯体として存在する。AuCl など1価の金化合物はシアノ錯体を除いて一般的に水溶液中で不安定であり、不均化しやすい。
金化合物は一般的に熱力学的に不安定であり、光の作用により分解し、単体の金を遊離しやすい。合金中において金はイオン化したとしても直ちに他の金属によって還元され、添加された金属は酸化される。このことも「金は安定的」と言われる所以になっている。
金は、美しい光沢を含めて有用な性質を多く持つ。また精錬の必要がない単体の金そのままで自然界に存在しているため、精錬が必要な鉄などよりも早く人類が利用していた金属とされる。しかし産出は非常に限られていたため、有史以前から貴重な金属、貴金属として知られていた。また、そのままでは金として利用できない金鉱石であっても、アマルガム法や灰吹法などの冶金法によって取り出すことができた。
長い年月を経ても変化しない金の性質は神秘性を産み、不老不死との関連としても研究された。占星術においては、中心に点が描かれた円の記号は太陽を表すと同時に金も表し、これは古代エジプトのヒエログリフにも見られる。このように、金は歴史とともに利用価値の高さゆえの豊かさと富の象徴であり、金そのものや鉱山(金鉱や金山)の所有、採掘の権利などを巡る争奪・紛争が、個人間から国家間の規模に至るまでしばしば引き起こされた。
金は紀元前3000年代に使われ始めた。最古の金属貨幣は紀元前7 - 6世紀(紀元前670年頃)にリディアでアリュアッテス2世王により造られたエレクトロン貨で、天然の金銀合金に動物や人物を打刻している。金は中国で商時代に已に装飾品として使われ、春秋戦国時代には貨幣や象嵌材料として使用された。
古代エジプトのヒエログリフでは、紀元前2600年頃から金についての記述が見られる。ミタンニの王トゥシュラッタが、通常は粒として請求をしている。エジプトとヌビアは、史上でも有数の金産出地域である。『旧約聖書』でも、金について多く触れられている。黒海の南西部は、金の産出地として名高い。金を利用した物としては、ミダスの時代にまで遡ると言われている。この金は、前述のリディアでの世界で初めての貨幣成立(エレクトロン貨)に大きく影響を及ぼしたと言われている。
日本での古代の金製品は福岡県志賀島にて発見された漢委奴国王印などがある。古墳時代には奈良県東大寺山古墳出土の「中平」銘鉄剣や埼玉県稲荷山古墳出土の「辛亥」銘鉄剣など、鉄地に線を彫って金線を埋め込んだ金象嵌があった。
奈良時代までの日本は金を産出せず、供給は朝鮮半島の新羅や高句麗からの輸入に頼っていた。749年に百済王敬福が奥州(現在の東北地方)で砂金の発見を報告し、状況は一変する。8世紀後半からは逆に渤海、新羅などへ輸出され、遣唐使の滞在費用として砂金が持ち込まれることで、後の「黄金の国」のイメージの原型が形作られた。
平安時代後期には奥州を掌握した奥州藤原氏によって、産金による経済力を背景に、平泉が平安京に次ぐ日本第二の都市にまで発展した。砂金は平安京や北宋・沿海州などとの貿易に使用された。奥州産の金をふんだんに使用した中尊寺金色堂は、マルコ・ポーロが『東方見聞録』で 紹介した黄金の国ジパングのモデルになったともされる。
豊臣政権や江戸幕府は金山への支配を強め、金を含有した大判や小判を発行した。
コロンブスのアメリカ州到達以来、探検家や征服者(コンキスタドール)によって行われたアメリカ原住民(インカ帝国など)からの金の強奪は膨大な量に上った。特に中央アメリカや南米大陸のペルー、コロンビアを原産とする物が多い。それらは金と銅の合金で作られており、スペイン人たちはTumbagaと呼んでいた。金への欲望を募らせたヨーロッパ人は、金鉱あるいは採掘済みの金があると信じたエル・ドラード(黄金郷)を探し求めて南米奥地に分け入ったが、現在に至るまで該当する土地は見つかっていない。
大航海時代以降にはこのほか、日本近くにあると信じられた金銀島も探索の対象となった。
1848年、アメリカ合衆国では、ゴールドラッシュと呼ばれる、金採掘を目的としたカリフォルニア州への大規模移民が起きた。同様の現象は、現在までにアメリカ国外を含めてしばしば発生している。
1899年から1901年まで南アフリカで起きたボーア戦争は、イギリスとボーアの鉱山労働者の権利や金の所有権に関する争いである。
歴史上の評価を総括するならば、金は最も価値のある金属と考えられてきた。また純粋、価値、特権階級の象徴としてもとらえられてきた。これは、金が他の金属と比較して年代を経ても基本的な性質を損なわず、価値を保存する性質に優れていたことが大きな理由である。したがって、その後発展した多くの通貨制度においても、金は最も上位に位置する基準とされてきた(金本位制)。
ほとんどの国が管理通貨制度に移行した現代でも、多くの中央銀行や政府が、財務的な信用力を確保するため資産の一部を地金として保有している。
また金の先物取引などは、個人からヘッジファンドなどのトレーダーに至るまで投資の一手段とされている。さらに資産の一部を金地金や金貨、金装飾品で保有する個人もいる。
2004年11月、ロンドン金価格に連動するETF(上場投資信託)が誕生し、一般投資家が金地金の現物を購入・保管する手間やコストなく投資可能となったことで需要が増大した。
金は「安全資産」と看做されており、世界経済や国際情勢への不安感が増したり、金利が低下して、金利を生まない金を保有するデメリットが薄れたりすると金価格は上昇する傾向がある。金の国際相場最高値は、2011年に1トロイオンス1900ドルを超え、2020年に新型コロナウイルス感染症の影響で2000ドルを突破。日本国内では新型コロナウイルス感染症の影響で2020年4月13日、1グラム6513円と従来の最高値(消費税導入前の1980年1月に付けた6495円)を超えた。
金の採掘は比較的容易であり、1910年からこれまでに、究極可採埋蔵量のうち75%ほどの金が産出されてきたと考えられている。地質学的に、地球上にある採掘可能な金の埋蔵量は、一辺が20 mの立方体に収まる程度と考えられている。
こうして金が財力として価値が見いだされると、新たに金を採掘するよりも容易に金が得られる技術の開発が試みられた。金そのものの性質を調べることに加え、それまでの冶金術を元に、身近な金属や物質から金を作り出す研究が盛んに行われ、これは錬金術として確立した。占星術からの引用で太陽を表す記号で金も表し、金を生み出すことができるとされた物質には賢者の石の名を与えた。錬金術師達により賢者の石を作ることに多くの努力がなされ、その試みの全ては失敗に終わったが、得られた多くの成果はその後の化学や物理学の基礎となった。
現代では原子核物理学と宇宙物理学の発展により、鉄(原子番号26)より重い元素核種は、中性子捕獲とベータ崩壊によって作られることがわかっている。この過程を解明するための再現実験で、金よりも原子番号が一つ大きい水銀(原子番号80)の安定核種に中性子線を照射すると放射性同位体が生成され、これがベータ崩壊することで金の同位体が得られる。ただし、これらは安定核種ではない(放射能を持つ)上に、実用に耐えうる十分な量の金を求めるのなら長い年月と膨大なエネルギーが必要であり、得られる金の時価と比べるともちろん現実的でない。
金を含むあらゆる元素は、宇宙の進化とともに生成されてきた。特に鉄よりも重い金のような元素は、星の爆発などの凄まじい天文現象で生成された。
宇宙で金を含むこのような重元素が作ら